いつもいつも意地の悪い言動ばかりとる私の上司。
「おめでとー!」「ざぁーんねんでしたー!」が口癖だが、その言葉の意味するものは普通とは違う。
悪い事態が起きた時に「おめでとー!」
良い事態が起きた時に「ざぁーんねんでしたー!」
捻くれている。
常に他人の前で道化のように振舞い、決して本心は見せない男。
私の中で彼はそういった男だった。
あの時までは。


「よせ!枢木准尉!」


その時、彼の本心を垣間見れた気がした。

      *


「ロイドさんでもあんなに焦ることがあるんですね」
ランスロットの調整データを入力しながら、私は傍らに立つ上司に言った。
いつもからかわれている仕返しとばかりに、その口調は我ながら嫌味っぽい。
「ん?何のことかな」
私の言うことなどまるで眼中に無いかのように、手元の電子資料から目を離さず答えた。
口調もそっけない。
だが彼のこの様子を見て、ピンときた。伊達に長い付き合いではない。これは都合が悪いことをごまかしている態度だ。
いつもの彼なら私の意見を真っ向から受け止めた上で、その矛盾点・疑問点を徹底的に攻めてくるはずだ。
なのに今の彼は私とも目を合わせようとはせず、資料を見つめたままだ。
それでも私は気づいている。その資料を見つめる目が焦点が定まらずに泳いでいることを。
「何って、この前の事ですよ。ホテルジャック事件。」
先日、日本――今は「エリア11」だが――の河口湖畔のホテルで、日本解放戦線による立てこもり事件があった。
人質にはアッシュフォード学園の生徒達の他に、なんとあのユーフェミア皇女の姿もあった。
ブリタニア帝国第三皇女、ユーフェミア。
まだ学生の身分であったため、今まで表舞台にはほとんど出てこなかった方だが、今回はそれが災いしたらしい。
一般人に紛れて日本解放戦線に人質とされてしまったが、そこにゼロが現れた。
そして「黒の騎士団」の表明、崩壊するビル、ランスロットの出撃……



「そんなに心配だったんですか?」
聞きながら、ついつい笑みがこぼれてしまう。
いつもとは逆の立場だ。
彼の肩がわずかに上下した。
「あのねぇ、僕はランスロットの心配をしてたんだけど」
「あら、私は一言もスザク君のことがなんて言ってませんけど?」
彼の肩が大きく上下した。
やはり動揺している。いつもの彼ならこんな手には絶対に引っかからない。
「してたんですか?スザク君の心配」
データ入力している手を止め、彼の顔を覗き込んだ。
だが私の動きに合わせて体を背け、顔を見せようとしない。
「ロイドさん?」
呼びかけながら再度顔を見ようと試みる。しかしその度に体の向きを変えられてしまう。
時計周りに体の向きを変える彼と、それを追う私。
ちょうど三周ほどした時に、さすがに不審に思ったのだろう、整備班の人達が何事かとこちらを凝視している。
慌てて距離を取った。顔が熱い。今私の顔が赤くなっているだろう。
ただでさえ周りに良く思われていない特派だ。これでますます評判が下がるだろうな。
何やってるんだろう、私。でも、ロイドさんも悪い。
スザク君が心配なら素直にそう白状すればいい。
いつもいつも仮面をつけて、本心を隠して。
それじゃ疲れちゃいますよ……。




「……わかったわかった。白状するよ。」
え、と顔を上げると彼が腰に手をあてて「やれやれ」といったポーズで私を振り向いた。
「ランスロットの性能をあそこまで引き出せるのは彼だけだからね。今いなくなられると困るでしょ」
ま、あの青臭さは見てておもしろいしね、と小さく付け加えた。
なるほど、そうきたか。ほんと素直じゃない人だ。ずいぶん分厚い仮面だこと。
でも、いつかは……いつになるかわからないけど……その仮面を全部はがしてみせる。
今はまだちょっとだけど。いつか、必ず。
腕時計に目をやる。15時半。丁度いい時間だ。
よし、決めた。


「さ、仕事仕事……ってなに?」
自分の二の腕をがっしり掴んだ私を見て、彼は不思議そうに尋ねた。
「もうすぐスザク君が学校から帰ってきますから、迎えに行きましょう」
満面の笑みで言ってやった。彼の顔がひきつっているのがわかる。
「いや、そーゆうのは「行 き ま し ょ う!」
何か言いかけたのを遮り、腕を引っ張って歩き出す。
「ちょ、ちょっと…!」
「人との正しい付き合い方、教えて差し上げます」

      終

  

          戻る

inserted by FC2 system